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 先々週の、「金沢旅行」といっている割には加賀温泉にも福井県の永平寺にも行っちゃった北陸気まま一人旅の続きのお話。


 二日目はのんびりホテルを出て、電車で加賀温泉駅まで。
 駅前から出ている観光バスにゆらり揺られて那谷寺を見学。
 また駅に戻って、今度はお宿の送迎バスにゆらり揺られて山中温泉まで。
 お宿で丁重にチェックインの手続きをしていただいて、お部屋に案内してもらったのが4時ちょっと前。
 早くも日が落ちかけた鶴仙渓を、真っ暗になっては道がわからなくなってしまうと駆け足で散策。
 帰ってきて、とりあえず温泉に入って、部屋でのんびりして、「宿泊代金、勘違いしてないか自分?」とさえ思ったほど豪勢な夕食を頂いて、ちょっと休んでまた温泉へ。
 室内風呂と、扉を隔てて半露天風呂がある大浴場。たまたま、ほとんど誰もいなかった。

 半露天風呂に一人きりになった。
 湯煙の向こうに、かすかな街灯の明かりと木々のシルエットだけが見える。
 月が見える。
 なにか歌いたいな、と、鶴仙渓を散策しているあたりから思っていた。
 ひと気のない渓流沿いの緑。紅葉。どんぐり。
 上品な旅館。行き届いたもてなし。素晴らしい料理。
 落ち着いた、暖かい温泉。立ち込める湯煙。静けさ。
 気持ちがいいと、人は歌をうたいたくなるもんだ。
 何か即興でメロディが浮かんでくるといいのに、と思っても、私にそんな才能はない。あったらいいのに、とこのとき心底思った。
 言葉の意味なんか極限までそぎ落とした、あるいは歌われ続けて歌詞が「言葉」よりも「音」にかぎりなく近づいた、そんな歌がうたいたくなった。
 「月ぬ美しゃ」を口ずさんでみたけど、メロディしかわからないから物足りなかった。
 「望春風」を歌ってみたけど、発音も耳で覚えただけだし、ちょっと違うと思った。
 これも違うかな、と思って最後に取っておいた「ふるさと」が、思いのほかしっくり来た。
 誰でも入れる大浴場の半露天風呂で、一人きり、月を眺めながら歌をうたえるこの贅沢、自由。
 なんて素敵なんだろう。
 気持ちよく歌う私の歌声も、まんざらじゃなかったと思う。

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