沖縄の植物は暴力的だと思う。那覇市内でですらそれを感じる。
力強さを通り越して、なりふり構わず自分の陣地を広げていこうとする傍若無人さを感じる。
植物だけじゃない。沖縄は日差しも色彩も熱気も過剰だ。
どうも今回は、それに当てられたらしい。沖縄にいるあいだじゅう、ずっとぼんやりとしていた。
空港から名護バスターミナルまで行って、そこからさらに辺野古までバスで行った。
とりあえず海へ向かって歩いてみたけど、よくメディアに取り上げられている浜がどこにあるか分からず、海際をぶらぶらしていた。
本当に、作り物みたいな色の海だった。
そのうちにテント小屋を見つけた。気後れしたけど、浜の場所を聞こうと思って近寄ったら、中で番をしている女性に話を聞いていきませんか、といわれた。ここまで来て断るわけにも行かず、一通りの話を聞いた。
滑走路建設予定地がジュゴンの餌場になっていること。ジュゴンは特定の海草しか食べないのに、それがなくなってしまうこと。
辺野古の滑走路建設計画は、普天間基地移設の話が出る以前からあったこと。普天間の移設を余儀なくされたアメリカ側がこれは好都合と、ずっと欲しかった辺野古の基地を日本に作らせようとしていること。
もともとこれほど沖縄に基地が増えたのは、何十年も前に内地で米軍基地への反感が強くなったのが理由であること。困ったアメリカが、当時米軍統治下にあった沖縄に基地を移すことで反米感情をなだめようとしたこと。
普天間に駐屯している部隊は、一年の大半はあちこちを渡り歩いていること。でも彼らが留守にしている間に日本や沖縄や米軍基地が襲撃されるようなことは起こっていないこと。よって、抑止力という面から見ても普天間もその代替施設も必要ないということ。
滑走路は、半分を地元の建設業者が、もう半分を内地の大手ゼネコンが請け負うことになっていること。結局は政府とゼネコンとが甘い汁を吸うようになっていること。
基地によって雇用が生まれているというが、辺野古の失業率・生活保護需給率はとても高く、まったく豊かではないこと。飴をもらうことに慣れてしまって自分たちの足で立とうという精神が薄れていること。実際、基地が返還された地域は独自の産業を発展させて以前よりもずっと活性化されてきているということ。
そしてこのような事実が、本土のマスコミに取り上げられることがほとんどないこと。
静かに、でも力強く滔滔と話す女性の言葉に、安易な発想でここに来た自分の幼稚さと、何に対してかわからないけど鈍い違和感を覚えた。
根底にあるのは「基地は要らない」という思いなんだろう。いろいろな理由は、その思いを肉付けするためのものだ。理由が先ではなく、思いが先なんだろう。それが良い悪いではなくて。
……うん、うまく言えないや。暗に負担を押し付けている本土、無知な本土の人間を非難しているような言葉に嫌悪感を覚えただけなのかも。
もらった資料にちらりと見えた「琉球処分」の文字が、消えてくれない。
二日目は、3度目の沖縄にして初めて首里城に行ってきた。
ゆいレールの首里駅で降りるとすぐにタクシーの運転手に声をかけられた。
今から首里城に行くの? 何時に帰るの? サンゴ礁は見た? ダメだよー沖縄にきたらあれを見なきゃー。一日これくらいの料金で案内してあげるよ。
過去二回はやっぱりそうやってタクシーの運転手に捕まって、あちこち案内してもらったけど、今回は自分のペースで周りたかったこともあったし、前回そうやって案内してもらったことを久高島の人に言ったらいい顔をされなかったこともあって、丁重にお断りした。断った直後にまた別の人に捕まって、正直なところ辟易した。
客のことを思って、放っておけなくて、親切心から声をかけるわけじゃないんだってことがわかってしまった。儲けたいから声をかけるんだ。当然だよ、それで生活しているんだもの。
首里城では、幕末期の琉球王朝についての展示がしてあった。日本と中国・朝鮮などの貿易の中継点として栄えた琉球。日本に行く前に、ペリーは琉球に来ていました、と太字で強調された説明文。沖縄戦で破壊され、修復された城。先の大戦で原画が消失した国王たちの肖像画。
首里駅へ戻ったらまたタクシーの運転手に声をかけられた。笑顔でかわしてゆいレールで県庁前に出て、国際通りをふたふら。県庁前では宮里藍が世界ランク一位になったことを知らせる号外が配られていたようだ。
国際通りは観光客で大賑わい。極彩色のお土産のパッケージ。南国リゾート気分を盛り上げる音楽。東京に並んでたらまず買わないであろうおかしな言葉が入ったTシャツ。芸能人もつけているアクセサリー。密度の濃さにくらくらする。一人でいるから感覚が過剰になっていたんだろうか。それとも暑さのせい?
沖縄の人たちは、沖縄、あるいは琉球にとても自尊心を持っている。栄えた琉球王国。琉球処分から沖縄戦、現在の基地問題へ続く不当な扱い。独自の文化。美しい自然。豊かな才能を持った人たち。日本の一都道府県ではなく、日本の中の沖縄という小国。
同時に、本土からの観光客がいなければきっと経済は成り立たない。国際通りで、地元の人たちが利用する店は一体どれくらい? バスで名護まで行けばよくわかる。那覇市を出れば、新しい・綺麗な店は大型リゾートホテルの近くに集中している。
本土に反発しながら、それでも本土なしには生きていけない沖縄。自分にとって都合のいいところしか見ようとしない能天気な観光客。そんなことにはお構いなしの青い海、非情な太陽、わがままな植物。
今まで見えなかったことが、よく見えた旅だったように思う。
今日は慰霊の日。沖縄の学校は休校になるそう。知らなかった。
きっと本土の何倍も、このニュースが時間を割くんだろう。
嫌いになったわけじゃない。でも手放しで大好きだとも言えない。
とりあえず、行けてよかった。
主な使用カメラ:NIKON U2 , NIKON D7000 , HASSELBLAD 503cx
植物と光と陰を撮るのが好きです。